
予算よりだいぶオーバーしていたのに買ってしまった。あるいは、買う予定のなかったものまで買ってしまった。こんな経験は誰にでもあるはず。店員とやりとりしているうちに、気づいたらいつの間にか買う気になっていた。つまり、乗せられてしまった、というわけだ。これぞ、お客を乗せて買う気にさせる接客マニュアルのなせるワザ。店員は、ひとつでも多く買ってもらおうと、日々、このワザを磨いているのである。ワザが未熟だと、いかにもお世辞に聞こえてしまい、お客はしらけて買ってくれない。しかし、熟練した店員のワザともなると、お客の気分をどんどん盛り上げて、いつの間にか……。その見事な接客マニュアルとして、まず″マイナスープラス法″というのがある。どういうものかというと、言い方を換えることでマイナス点をプラスに思わせてしまう手法だ。たとえば、質はいいが値段が高い商品を売り込む場合は、「お値段はちょっと高めですが、質は他のものとは比べものになりません」というふうに説明する。逆に、安いが質がよくない場合はどうするかというと、「お安いですから、気軽にどんどん着れますし、このお値段ならすぐまた新しいものを買えますよ」となる。こう言われると、そりゃそうだと思えてしまう。言い方を換えるだけで、こんなにもイメージが変わるものだとは気がつかなかった。″イエス-バッド法″というのもあるらしい。これは、迷っているお客の意見に賛成してみせ、その後、「でもね」と覆す方法だ。たとえば、お客が望んでいた形の商品が売り切れで、他の似たような商品を売り込む場合だ。欲しかったものと形が違い、迷っているお客に対し、「そうですね。あの商品は○○なのがよくて、売れたんです」と、一度、お客に話を合わせる。ここで強引に他の商品を押しつけようとすると、お客の心は閉じてしまうのだという。お客にイエスということで、会話をつなげる。その後、「でも、あの商品よりもこちらのほうが△△ですから、お客様にはこちらのほうがお似合いだと思いますよ」ともっていく。お客は、一度認められているので、そう言われるとそんな気がしてしまう。お見事と感心するしかない。そして、とっておきは売れ残り商品を売り込むワザ。ひどい店になると、売れ残りであるにもかかわらず、「売れ筋商品で、もうこれしか残ってないんですよ」と言う。これしかないと思うと、そんなに欲しくなくてもお客は焦って買ってしまう。また、一定の色ばかりが売れ残ったときには、「この色は今年の流行で、いま、とても人気があるんですよ」とやれば、これまた買っていくのだという。もちろん、すべての店でこんな手を使っているわけではない。本当に売れ筋商品だったり、流行色だったりすることもあるのだから、見分けるのも難しい。もっとも、接客マニュアルで″お客様は神様″扱いしてもらい、いい気分になれるのも、買い物の楽しみのひとつ。接客マニュアルを十分楽しみつつ、賢い買い物を!