
3階、4階以上のビルだと、エレべーターがあるのが当たり前と、便利な世の中になったもの。しかしなかには、やたらにイライラするエレべーターがある。洗練されたデザインのビルに多いのだが、そのエレべーターがいま何階にいるという表示がないものだ。扉が開くまでに、実際には20秒しかかからなかったとしても、2分くらい待たされたような気になってしまう。心理的な錯覚にすぎないのだが、そういうエレべーターの設計者はこの心理学の原則を知らないようである。なかでも、人をイライラさせるので悪名高いのが、霞ヶ関の東京地裁と高裁のビルだと言われている。階数表示がないために、裁判を前にしてただでさえ不安定な心理状態にある人々が、余計にイライラしながら待つことになる。お役所ならそれでもいいのかもしれないが、客商売のデパートはそうはいかない。お客様が気持ちよく買い物できる環境をつくるのが絶対条件。階数表示のないエレべーターはまずない。それでも、客は待たされると、やはりイライラする。そこで考えたのが、鏡。デパートのエレべーターホールに、よく鏡が設置されているのにお気づきだろうか。なかには、エレべーターのドアそのものがツルツルの金属でできていて、鏡のようになっているところもある。不思議なもので、毎日見ている自分の姿でも、人というのは飽きないものらしい。ただの壁だとイライラするけど、鏡にしておけば、洋服が乱れていないかとか、お化粧が崩れていないかのチェックをしたりして、エレべーターが来るまでの数十秒から数分なんてあっという間に過ぎてしまう。同じ理屈で、お年寄りや子供もいるからとの理由で、普通の人には遅く感じる速度にしてあるエスカレーターも、その壁を鏡にしておけば遅いという苦情は来ないそうだ。みんな、自分の顔やスタイルに自信があるのか、鏡でチェックするのが好きらしい。デートの待ち合わせにエレべーターホールなんていうのもいいかもしれない。それなら相手がちょっとくらい遅れても、そんなに気にならない?